簡単に言ってしまえば、
「うちのガイドブックに広告だしてくださいよ」
みたいな広告の営業です。
これがなっかなかとれないんですよ。ノルマなんか雲の上。このままいくとクビ確実…。
■ 背水の陣で営業
事態が好転したのは、「最悪クビやな。でもさすがに『この給料泥棒が!』って社長に射殺されることはないやろう」と考えたあたりですね。
「撃ちます」なんて社長がライフル銃かまえて言い出すところを想像したら、あまりの現実味のなさに笑えてきまして、最悪の事態を受け入れられました。
「クビになったらまた就職活動するか。ちなみに来年結婚やけど…」
まぁ結婚の話はおいておいてです。駆け出しの営業マン、ましてや私です。広告がバンバンとれるわけない。
できることをやったらいい。…ってこれまたできることがないんですよ。
必死で探したことが、営業の最中に出会う人から話を聞いて勉強すること。
レストランの店長さんなんて一国一城の主です。そんな城を築き上げた方とお話できる、これはまたとない機会です。これは楽しいぞぉと思いました。
その最期(!?)の背水の陣営業で出逢ったのが蓼科にあるステーキハウス『ノースポイント』の北村さんです。
■ 気持ちいい自慢話
関西弁のおっちゃんで、もうしゃべるしゃべる。それがまた面白いから憎いんです。肉だけに…。
三時間ぐらい話してくれました。
そして惚れました。一目惚れです。おっちゃんに一目惚れしたのなんて…初めて。
後は会社の上司に「このステーキハウスを紹介しないなんてガイドブック最大の損失です。なんとか広告料半値でOKしてください」土下座してました。
北村さんが話してくれたことといえば、
・肉にどんだけこだわりがあるか、
・どんな肉通であっても唸らしてきたとか、
・どんなすごい常連さんがいるかとか…
書いてしまうと「ただの自慢話をするおっちゃんやん」となるのですが、これがぜんっぜん聞いていて悪い気がしない。
なぜか?
このステーキハウスノースポイントに嫁さんを連れて行ったのですが、気持ちいい自慢話の理由を彼女が気づいてくれました。
「北村さんってとても素敵な口ぐせがあるね」
「え?どんな?」
「『嬉しなってくるやん』って。」
確かにそうでした。
「混んでるときなんかどうしてもお客さん待たせてまうやん?ムスっとしてもてるわ。でも何分待たせても肉持っていってみ?めちゃくちゃ笑顔になるやん。それ見たらもう嬉しなってくんねん」
『嬉しなってくる』
■ 夢に向かう原動力
北村さんの原動力はこれなんだと思うんです。
賞をとったような但馬牛を必死で仕入れてくるのも、その肉の最高の焼き方を常に研究するのも、全部食べてくれる人の喜ぶところをみたいから。
人の喜ぶところを想像しながら肉の道を究める、それが『嬉しなってくる』から。
【引用】女を喜ばすと書いて嬉しい…
この漢字を考えた人は、いったい何を考えていたのだろう(嘉門達夫)
これから一生かけて楽しむような夢を探すとき、誰かを喜ばせるようなものを探してみてはどうでしょう。
人が喜ぶ顔を見て『嬉しなってくる』のは、北村さんだけではないと思います。
女性を喜ばすことは男の喜びですが(変な意味ではなく)、
「人を喜ばす」
これは人類共通の快感、欲求に違いありません。
生き甲斐になりうると言っても言い過ぎにはならないんじゃなかろうか。まぁ生き甲斐なんてあってもなくてもいいのだけど。
《あの人が喜ぶ顔見たら、嬉しなってくるやん》
道を究めていく課程で誰かが喜ぶような、隣にいてくれる人が喜んでくれるような夢。それは本当にワクワクしてきます。
ノースポイントのステーキは、じゅーじゅーいっているところを醤油とわさびで刺身のようにして食べるんです。
もうそれだけでもとろけそうですが、一人の匠の「嬉しなってくる」が隠し味になったステーキなんです。
それはそれは世界で一番美味しいステーキに違いありません。
長野の蓼科にぜひ食べにきてください。あなたの素敵な仲間と。
ステーキだけに…。